【3.フランスの「ひきこもり」の現状について&ドイツにひきこもりはいるのか】
名古屋大学医学部大学院精神健康医学/学生相談総合センター
古橋忠晃先生


 【ドイツにおけるひきこもりについての予備調査】
 
・ドイツでは2010年に予備調査が行われた。この調査では、日本でいうひきこもりはほぼ存在しない代わりに、インターネット依存は青年――とりわけ大学生――にたくさん広がっていた。
・ちなみにドイツでは、ひきこもりという概念は全く注目されてない。ネット依存はさんざん問題になっているが。

【フランスにおける precarite という概念】

・フランスでは、1960年代から、不安定さ precarite を持つ人が精神医学の新たな対象として着眼されはじめてきた歴史がある――家庭問題、テロや災害、貧困、不安定雇用などに直面した人達 (注:ここでいうフランス語のprecariteは、日本語圏でいうプレカリアートとはニュアンスが違う点に注意。前者は、経済的・雇用的な問題だけを指す言葉ではなく、もう少し生活全般の不安定さを指す言葉) 。ただし概念が広がりすぎているきらいがあるので、最近はprecariteの再定義も試みられている。

・フランスでは、「日本ではバブル崩壊後、不安定さの中を生きている人が増えて、フリーターやひきこもりが増えている。」と報じられている。個人の問題と社会の問題が不明瞭なまま語られている傾向あり。「日本ではprecariteに相当する人がフランスより多く、ずっと増えている」とみられている。

【フランスにおけるひきこもり】
 
・フランスの医療制度のなかでは、ひきこもりは 公的機関から要請を受けて受診 親が公的機関に依頼 自分からの相談という形で事例化する。医療の窓口に関しては、精神科医だけでなく内科医がつとめることもある。(注:このあたりに関して、フランスの医療制度、特に地域セクター制度について詳しい説明があったが、ここでは割愛)
・フランスのひきこもりの定義は、日本のソレと大体同じだが、ひきこもり期間が三ヶ月と、日本より短い。
・フランスでは「発達障害とひきこもり」という議論はほとんどされていない。本当はそういう人がいるかもしれないが、日本のようには議論されていない。
・教育機関は、日本とは違ってドロップアウトをほとんど問題にしていない。パリ大学の学生相談にも、ひきこもりは殆どいなかった。
・フランスでは、心理的挫折を窺わせるエピソードから、社会から大きく逸脱していく(薬物、非行など)パターンが多い。ひきこもる前に明確な障害が存在していた。日本の場合、そういったわかりやすさは必ずしも無い。
・インターネット依存型が多い。ポジティブにgeekと自称して、そこから抜け出せなくなっている。例:「日本のひきこもりは極端。世界から断絶されているし、人を恐れているし。フランスにはひきこもりなんていないよ。自分はgeekなんだから引きこもりじゃないよ」
・予後は日本と同じく不良。
・以前からフランスでも存在した現象だが、日本からひきこもりという概念が導入されて、注目されはじめている。
・フランスでは、ひきこもりの治療というのは、無い。まだ考えられていない。これから。

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