ネットリテラシーが、コミュニケーション技能として問われる時代

 さて、人間関係に占めるネットコミュニケーションのウエイトは、今後ますます大きくなっていくと予想されます。もちろんface to face なコミュニケーションの重要性は揺るぎませんが、仕事も住まいも流動性の高い暮らしをしている現代人にとって、距離の制約を無視できるインターネットは避けて通ることのできないコミュニケーションの手段として位置づけられるでしょう。

 ということは、今後はインターネット上のコミュニケーションの作法・マナーといったものが、長期的な人間関係を左右する重大なファクターになっていくと推定されます。少なくとも、人間関係全体に占めるウエイトは増える筈です。

 オンラインでもオフラインでも、人と人とがコミュニケーションする限りにおいては作法やマナーの基本はそんなに変わりません。しかしインターネット上でのコミュニケーションは従来のそれとは違って、書き込んだ文章がアーカイブとなって残存し、想定していなかった他人に自分の発言が引用されたり閲覧されたりすることがあり得ます。こうしたインターネット独自の特徴には、十分な注意が必要です。

 例えばオフ会やホームパーティーの後、そのとき撮った写真をネット上にアップロードして見せ合ったり、感想を交換したりするのはとても楽しいものですが、その写真や感想文にプライバシーに関する情報が含まれていて、しかも公開範囲を制限していなければ、あなたと一緒にいた人達の個人情報が全世界に公開されてしまいます。もし、あなたがインターネット上で特別に人目を惹くような事をしなければ、何も起こらず済むかもしれませんが、万が一、何かのはずみで“炎上”が起こってあなたが“メシウマ”の対象になってしまった際には、友達にも迷惑が及んでしまうかもしれません。

 また、あなた自身が困らないとしても、その時一緒にいた人達のなかには、プライバシーに関わる情報や写真を公開されたくない人が混じっているかもしれません。特に女性の場合、プライバシー情報の取り扱いに慎重な人も多いのではないかと思います。にも関わらず、あなたが無承諾でインターネット上に写真や感想文を公開してしまったら、あなたに対する心証は確実に悪くなってしまいます――「こんな無神経な人と一緒にいたら、どんな情報を漏らされるかわからない」と思われ、距離を取られてしまうのではないでしょうか。
 
 このため、いくらあなたが誠実でユーモアに恵まれていても、もしネットリテラシーに問題があったら、ただそれだけで人間関係が大きく障害されてしまうようになるでしょう。運が良ければ誰かに注意して貰えるかもしれませんが、運が悪ければ、黙って人が離れていくだけです。そうでなくても、自分自身や友人知人に大きな迷惑をかけてしまう可能性があります。

 オフラインだったら何気ない写真交換やきわどい冗談で済んでいたものも、ひとたびネット上に公開してしまえば全世界に拡散しアーカイブとして残存する可能性があります。自分のプライバシーを危険に曝すかもしれない迂闊な人・無神経な人と長く付き合いたい人なんて、どこにもいません。こうしたネットリテラシーへの配慮は、インターネットを介して長い付き合いを続けたい人にとって必須だと思います。

 それと、インターネットを介したコミュニケーションは、目下、テキスト(文字)によるものがメインなので、誤解無く相手にメッセージを伝える能力(あるいは逆に誤解の余地をわざと残したメッセージと伝える能力)がコミュニケーションの行方を左右することになります。もちろん、他人の文章を誤解無く読み取り、また逆に誤解の余地のある曖昧なメッセージに気づく力も必要になるでしょう。

 twitterやFacebookの類を使ったテキストコミュニケーションの割合が増えれば、話者の国語力というか日本語を適切に操る力が、それだけコミュニケーションの帰趨に影響する筈です。そしてface to face な従来のコミュニケーションとは異なり、こうしたネットコミュニケーションに際して、表情や声音といった非言語的な要素はなんの助けにもならないのです。ネットリテラシーを身につけると同時に、できるだけしっかりとした国語力を身につけることが、これまで以上に問われる時代がやってきたと言えるでしょう。

 こうしたネットコミュニケーションの注意点の仔細については、このウェブサイトでゆくゆくは説明していくつもりなので省略しますが、とにかく、「全世界に繋がった、テキスト中心の、アーカイブ化される前提のインターネット」でコミュニケーションを行っているという特性をよく理解する必要があると思います。

 [関連]:ネットコミュニケーション技能としての国語力
 [関連]:黒歴史がアーカイブになってしまう時代
 [関連]:「何を書かないようにするか」が問われている 
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