自己対象転移と転移の違い:

 精神分析にある程度馴染んだ人にとって、「転移」という言葉は耳なじみのあるものかもしれないけれども、自己心理学でいう自己対象転移という言葉と転移という言葉はかなり意味が違っている。この部分を混同したままだと自己心理学はわけが分からなくなるので、ここで簡単に紹介しておく。

転移:過去の人間関係(特に子ども時代の親子関係)で経験したのと同じ感情や行動が出現したり、似たような感情や行動になってしまう。

 例:過去に父親に逆らうと虐待されていた女性。彼女は父親の前では絶対服従に近い態度をとっていた。やがて彼女が成人して恋人を持つようになると、恋人の前では父親の前とそっくりな態度を選ぶようになり、結局は父親と彼女との人間関係がほとんど再現されるようになってしまった。

自己対象転移:過去の人間関係(特に子ども時代の親子関係)では経験できなかった自己対象体験への求めが、ポッと出現する。

 例:小さい頃から親の自己愛を充たす為にひたすらお受験していた男子。普段は恥に敏感で、クラスのなかの透明人間のようにひっそり生活していた。ところが、運に恵まれてクラスメート女性と友達になりかけた或る日、ありとあらゆる自己開陳をしたうえで「こんなオレでも見捨てないで受け止めてくれるよね?」と言って女性をドン引きさせた。→参考:ダメな俺を丸ごと受け入れてくれ症候群 

 つまり、転移は「すでに経験した体験」に関係しているのに対し、自己対象転移は「かつて経験できなかった体験」に関係している現象、ということになる。もちろん一人の人物において、この両方が出現する、ということは往々にしてあり得る。ふつうの“転移”の意味に慣れている人は、両者の混同にご注意を。

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