【4.日本のひきこもりの公的支援の動向と課題をさぐる】
 清水克修先生、堀口佐知子先生

  続いて、日本国内のひきこもり支援についての話があった。
 
【公的・民間支援の概況と動向】
・厚生労働省は、2009年からひきこもり対策推進事業を立ち上げて、政令指定都市に「ひきこもり地域支援センター」を整備。相談窓口や関係機関の連携を補佐。
・ガイドライン的には、段階的発展モデル。
 1出会いと評価段階:家族支援

2当事者との信頼関係の段階:個人療法

3中間的段階:集団療法や居場所の提供

4社会参加の試行段階:就労支援
こうやって段階的に支援を加えていく。
・ただし、この支援では若い人向けのサービスが多く、年齢による支援の不均衡があり、35歳以上は手薄。
・通院やレクリエーション活動にもお金がかかるのに、現金支給は想定されておらず、家族が専ら負担している。
・精神的自立→社会的自立→経済的自立が前提。「この人は経済的に自立できない人として支えていくしかない」という視点があまり無い。
・経済的受け皿が少ない(仕事を得にくい、機会が少ない、など)という問題にフォーカスが十分当てられていない。
・特定機関、特定組織から独立したソーシャルワーカーがいない(「ガイド」のエキスパートが少ない)。援助プログラムや援助施設の選択と利用が、個人や家族の自己判断にお任せになっている。

【症例から見えてきたこと6つ】
1.個々の状況の「問題」:ケースごとの問題の多様性
2.ひきこもりへの自己同定による事例化。精神医学上の診断名の希薄さと、「ひきこもり」という診断名へのポジティブな感覚や愛着。
3.年齢への意識の強さ:「○○歳になったら△△していなければならない」という意識
4.援助機関の併用と、援助機関間の(クライアントの)移動の多さ:特定機関や病院から自律したケースワーカーが欲しい理由は、このため。特定機関の専属ばかりではなく、複数機関について情報を持ち、比較したうえで紹介できるような人が今はいない。
5.「自立準備」は手許金の多寡に大きく左右されがち。
6.ひきこもり期間の長さと、ひきこもり中の成熟の可能性:謙虚さ、他人の痛みへの共感、内なる声への傾聴、人間性の回復、生きていくことへの自信を持つこと、自律力(自立力にあらず)、差別感からの脱却。こういった部分を当事者から感じるところもある。

【問題提起】
 ・年齢別援助はどこまで有効?:歳を取るほど適用の範囲が狭くなる制度の難しさ
・自立モデルはどの程度妥当か?:経済的自立を必ずゴールとするモデリングが、全てのケースで妥当なのか。
・現金給付は、最後の手段でいいのか?
・年齢が高く、経済的援助が受けられず、散在する援助プログラムの利用を困難に感じるひきこもりの存在はどうするのか?「障碍者」としてカテゴライズした支援しかないのか。:現行は、かなり強引な制度利用となっているが、実際には、15年ほどひきこもり続けて精神機能/身体機能が衰弱しきっている一群も存在しているので、もう少しなんとかならないのか。  

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