【2.アメリカから見た日本のひきこもり】
 ミシガン大学 人類学部 照山絢子先生

 続いて、アメリカから日本のひきこもりがどんな風に見られていて、どんな風に論じられているのかを中心とした報告があった。

【ニューヨークタイムスから】
・「ひきこもりは日本に特有の現象、文化症候群」と明言
・経済要因:グローバル化に適応する者と、ついていけない者の二分化
・ジェンダー的特性:日本では、社会的に成功しなければならないプレッシャーが男性において強い
・労働市場/教育におけるスキルのミスマッチ:問題解決能力やコミュニケーション能力が求められているのに、学歴ばかり優先され、本当に必要なスキルが学生に与えられず、できていない。
・いじめを防ぐための家族や共同体の崩壊。
・抵抗の一形態としての「ひきこもり」:海外なら、ギャングやホームレスやドラッグの形を取るところが、日本では無言の抵抗の形を取る。
・世間体の問題:親が世間体を気にしてひきこもり相談が遅れる
・年齢的な問題:二十代後半からキャリアが形成できないと彼等は考えている
【Zielenziger,Michael 『Shutting out the Sun.』(2006)】
・日本は欧米化しているが、深い部分で機能不全
・日本的な文化や習慣の悪しき側面が残存:本音と建前の社会/民主主義が外から与えられていて、自ら葛藤して手に入れたわけではない/国が辿った経過がアメリカと同じなら、こうならなかったのではないか
・追いやられている犠牲者としてのひきこもり:アメリカだったら彼等は色々出来ていたんじゃないか。ジョヴズだって、生まれが日本だったらひきこもっていたんじゃないか。
→全般的に日本社会批判の論調が強い、と演者さん。

※ちなみに私個人は、この話を聴きながら「そりゃあそうかもしれないけど、東アジアのこの国が、アメリカと同じ目標を目指しても劣化コピーになるだけじゃないの?」などと思ってしまった。それと、ソトから与えられた民主化プロセスはホンモノじゃないとは言うけれど、非欧米圏に民主化を盛んに促して、ときには武力で強要すらしている国があったんじゃないのかなぁ……などとも思った。
※あと、この本の日本語訳を読んだ印象では、興味深い社会分析ではあるけれども、ちょっとひきこもりへの感情移入と理想化が激しすぎるかな、とも思った。一種のオリエンタリズムも。もしかしたら文体のせいかもしれないけど。興味のある人は、マイケル・ジーレンジガー『ひきこもりの国』を調べてみてください。
 
 【Teo,Alan 引きこもりについての論文】
→たぶんアブストラクトはこれ

・引きこもりの歴史や定義、疫学的データなどを概観
・抵抗の一形態としてのひきこもり:何もしないという抵抗が日本的。
・文化症候群である可能性を示唆:DSM-IVでは扱えない群が含まれているという示唆。ただし、日本特有の現象と言い切っていいかは留保。
・日本で「ひきこもり」を診断名として扱うことについて:「輪郭が曖昧な、診断名とは言えないものが使われているのは、意図的にソフトな表現を使っているのでは」

BorovoyAmy 社会人類学者の意見】
 
 ・敗戦後のメンタルヘルスのあり方を知る切り口としてのひきこもり研究
・日本社会の平等性に対するコミットメントと、広範に及ぶ中産階級の産出に伴う、社会の暗部としてのひきこもり。
・医療を回避。そのかわり、ひきこもりがひきこもれるような、バッファーとして機能する場が社会の中に確保されている(アメリカには、そうしたバッファーとして機能する場が無い代わりにシステム面での整備は進んでいる)。
→日米のありかたを比較しつつ、どちらも極端にいきすぎるとまずい、という論調だった。ひきこもりが存在するということ=社会の中にバッファ的な機能・スキマがある、という見方。ひきこもりの数が、日本>ヨーロッパ(特にラテン文化圏)>アメリカ なのは、このバッファ的な機能の多寡の度合いもあるんじゃないか、というような話もあった。

【そのほかのお話】

・ほとんどの著者は、ひきこもりを日本固有の問題と見ながらも、他の国にも共通しているところはある、と指摘している。「アメリカにも本来そういう人は存在するが、アメリカの場合、ひきこもりとは異なった着地点(ホームレスやギャングなど)に行っているんだ」的な。その違いとして、著者達は「日本社会にあってアメリカ社会に無いもの」を指摘しており、その指摘のなかにはオリエンタリズムとしか言いようがないものや、ひきこもりを美化しすぎているような部分もあるにせよ、アメリカ人達がひきこもりに注目していることそのものは注目に値する。そして、ひきこもりを海外から眺めてみる・海外のひきこもりを調査することも、示唆に富んでいるのではないか、という結びだった。  
 
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