・3.第一次萌えブーム(1990年代後半〜2000年頃)


 こちらの続きです。

 1990年代後半に入ると、「萌え」はひとつのブームを迎える。

 ちょうどこの頃は、以前からの古参オタク達に加え、『エヴァンゲリオン』ブームなどもあって新規消費者(=新しいオタク)が大量に流入した時期にあたる。地方都市にもオタクショップが建ち始め、萌えコンテンツの大量流通-大量消費が幕を開けた。コミックマーケットの参加者が四十万人を突破したのも、この時期である。

新世紀エヴァンゲリオン
『新世紀エヴァンゲリオン』 (C)GAINAX、1995

 アニメでは『新世紀エヴァンゲリオン』『機動戦艦ナデシコ』『カードキャプターさくら』等々のヒット作品が続き、関連グッズや同人誌も大きな売り上げを記録した。美少女恋愛ゲームの世界においても、現在の主流フォーマットとなっているビジュアルノベルという新システムが確立され、『To heart』『加奈〜いもうと〜』『Air』などが好評を博した。

 1990年代後半に「萌え」がブレイクした要因は多岐にわたるが、まず、windows95の発売とパソコンの低価格化、プレイステーションやセガサターンの登場といった、ハードウェアとソフトウェアの急激な発展が背景にあった事には触れておかなければならない。


9801vf
日本電気のパーソナルコンピュータ、PC-9801VF。

 というのも、「萌え」に供されるような美少女ゲームコンテンツは、美少女キャラクターを綺麗に描ける描画能力をもったハードウェアを必要とする、という制約があったからだ。現在は、スマートフォンですら易々と動画を再生できるけれども、90年代前半においては、PC-9800シリーズなどの高価なパーソナルコンピュータをもってしなければ静止画すら満足に描画できなかった。
 
 しかも、PC-9800シリーズや初期のDOS/Vコンピュータでゲームをプレイするには、MS-DOS(Microsoft Disk Operating System)を多少なりとも操作できなければならず、一本のゲームを遊ぶためにも、そのゲームごとにOSの設定をカスタマイズしなければならないなど、技術的にも敷居は高めだった。

 ところが1995年以降、windows95が普及し、値段も手頃で操作も簡単なコンピュータが手に入るようになったことで、さほどパソコンに詳しくない、さほどお金持ちでもない青少年でも美少女ゲームに手が届くようになってきた。しかも、同時期の家庭用ゲーム機(プレイステーションやセガサターンなど)もそこそこの描画性能を持っていたため、全年齢版のギャルゲーならゲーム機でも十分遊ぶことができた。90年代後半は、「萌え」の最前線はアニメやライトノベルである以上に美少女恋愛ゲームだったけれども、その最前線に触れるための敷居が一気に下がった、ということになる。

 こうして美少女コンテンツの大量生産/大量消費が幕を開けたなか、「売れるキャラクターフォーマット(=萌え属性)」がいよいよ意識されるようになり、「萌えやすい属性」「萌えやすいストーリー」「萌えやすいシチュエーション」を組み合わせて作品をつくる手法が一般化していった。消費するオタクの側もこうした動きに鋭敏に呼応し、好みの属性が盛り込まれた「萌えやすい」キャラクターを貪欲に消費していった。

 しかし、“人気の萌え属性を組み合わせればOK”的な状況は、萌え属性を組み合わせただけのキャラクター/コンテンツの粗製濫造を招かずにはいられず、“地雷”作品が氾濫することにもなっていく。つまり、萌えそうな属性を機械的にコラージュしただけではダメということが、すぐさま明らかになったのである※1

 ※1こうした「属性」だけを貪欲に追い求めていった結果として起こった現象のひとつに、『センチメンタルグラフィティ』というゲームに関する騒動がある。この騒動はちょっと面白いけれども余談になるので割愛する。気になる人は、グーグル検索してみて欲しい。

 この結果、1998年頃〜2000年頃にかけては、一握りの名作と大量の粗悪な美少女ゲームが市場に出回る状況になってしまっていた※2。90年代末からオンラインゲームが本格的に流行しはじめたことも手伝って、21世紀を迎える頃には「萌え」ブームはいったん沈静化していく。しかし、この時期を経て「萌え」はオタク界隈のなかの“メジャーな一ジャンル”として認知・定着していった。

 ※2ちなみに、この時点ではインターネットは現在ほど利便性の高い情報源とはいえず、それなりの情報を得るためにはテレホーダイの時間にきちんとネットサーフィンしなければならなかった。または、衰退期に入ったパソコン通信を使って、濃いオタクがいる場所を探し出す必要があった。グーグルや2ちゃんねる等が台頭してくるのは、2001年以降だ。

 →続き『『電車男』以降の「萌え」ブーム』を読む


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